★当院は「無麻酔歯石除去」を実施していません

なぜなら、リスクが大きいからです。

「日本小動物歯科研究会」という獣医歯科分野の団体があります。

こちらの機関でも「無麻酔歯石除去は危険」であると警鐘を鳴らしています。ホームページをぜひ訪れてみてください。

クリックで飛ぶようにしてあります!

 また、インターネットで「無麻酔歯石除去 危険」と検索してみてください。様々サイトで危険性を伝えていることがわかります。

「無麻酔歯石除去」を飼い主様が選ばれるのは、誤解があるからだと思っています。

その誤解は、大きな誤解だと思います。

しかしその誤解を解くのも、獣医さんの地道な啓蒙活動となるのでしょう。

無麻酔の歯石除去は、動物に優しく、飼い主さんにも良心的だと思われるかもしれません。

歯石だけ取ればいいのだし、麻酔は危険性が高く、無麻酔は安全、という誤った認識があるのだと思います。

もしかしたら、獣医さんはお金儲けの為に麻酔をかけている!?思われている方もおられるかもしれません。だとしたら、とても残念で悲しいことです。

 

まず、「麻酔をかけないから身体への負担が少ない」というのは誤解です。

もちろん高齢な子や、腎疾患、心臓病などがある子に麻酔を控えたいと思うのは、ご家族さまも獣医師も同じです。

しかし、このような動物を無麻酔で歯石除去をしたらどうなるでしょうか?

興奮させて暴れた場合はかなり危険です。

特に循環器疾患を持っている動物は、興奮によって心拍数や血圧の急な上昇を招き、循環機能に破綻をきたし、虚脱や失神・時に突然死をおこすことも考えられます。

また、麻酔のリスクは、麻酔前の検査で判定されるのであって、たとえば高齢であるからという年令的な理由のみで、麻酔リスクが高いと判定されるわけではありません。

「高齢な理由だけで、麻酔が危険」なわけではありません。

「高齢なだけで、手術ができない」わけでもありません。

特に手術が必要な疾患の多くが高齢のに達しています。子宮蓄膿症、各種の腫瘍の手術、椎間板ヘルニア、会陰ヘルニア、前立腺疾患などなど

どれも、一般には若い子には生じにくい疾患です。

このような疾患の子は、高齢だけが理由となり、手術ができないわけではありません。

繰り返しますが、「麻酔リスクは、年齢だけで判定されるものではありません」

逆に、年齢が若いからといって麻酔リスクが低いとも限りません。

生まれつきの先天性疾患の子しかり、基礎疾患を持っている子しかりです。

術前の各種検査所見、身体所見などを総合して判断されるものです

 

次に歯石の取り方についてです。

一般に歯石を除去する方法には2つあります。

1つめは「ハンドスケーラー」によるもの、もう一つは「超音波スケーラー」と呼ばれる医療器機を使う方法。

ハンドスケーラーは刃物です!もし突然動物が動いたら、歯肉や舌、場合によっては眼球を傷付けてしまいます。

そもそもハンドスケーラ自体が歯に痛みを与えます。

歯の表面を引っ掻いて歯石をとるので、思っている以上に痛みを伴います。

 

超音波スケーラーは、スケーラーの先が高速に振動することで、歯石を落とします。

振動によって熱が生じるので、水をかけて冷やさねば成りません。歯一本に連続使用できるのは15秒ほどです。

そうしないと、歯の中の神経を痛めてしまいます。

熱を下げる水は、同時に歯周病菌が付着した細かな歯石を洗い流してくれます。

もし麻酔をかけていなかったら、、、、。当然、その水を飲んでしまうことでしょう?

歯周病菌水といっても良いかもしれません。

では、流水をかけずに歯の歯石をとっていたら、、。それは歯自体を殺してしまいます。(歯組織の熱変性)

したがって、流水を用いない、超音波スケーラー使用も大変危険です

安全に歯科処置をするには「麻酔 + 流水を用いた超音波スケーラー」という組み合わせになります。

そして、必要に応じてハンドスケーラを部分的に使用するといった方法以外にないと思います。

★★「無麻酔歯石除去」のその他の危険性について、以下にまとめます。

◎無麻酔では歯に痛みを与える事になり、処置後、口を触ったり歯磨きをとても嫌がったり、犬猫の性格を過敏に変えてしてしまうことがある。

◎無麻酔の為、動く子には押さえつけて処置をすることがある。その為に歯周病の為に弱くなった顎の骨が骨折したり、後肢を踏ん張って、股関節が脱臼してしまうことがある。(実際に聞いたお話)

◎無麻酔下では、歯と歯肉の間(歯周ポケット)の処置(ルートプレーニングやキュレッタージなど)が実施できない為、歯の表面上は綺麗になったように見えるが、歯周病はかえって悪化し、結局は全身麻酔下で長時間の処置が必要になる。

◎歯周ポケット内に薬剤の注入や充填ができない

◎無麻酔で処置中、削り取った歯石くずが気道・肺に入り、その後「誤嚥性肺炎」を引き起こしてしまうことがある。(麻酔下では、気管にチューブを挿入します)

◎歯の表面の歯石を取るだけで、歯表面に形成された「キズ」のケア(ポリッシング等)ができない。

◎歯肉や舌を充分に観察できないため、歯肉腫瘍や舌癌などの早期発見のチャンスを失う場合がある。

 

★歯石を治療ではなく、美容目的でとるなら無麻酔でよいでしょうか?

 つまり、「治療」ではなく、「美容」ということで割り切って行うならば無麻酔歯石除去はアリでしょうか?

 大人しい性格で、押さえ付けずにできる子で嫌がりもしないなら、麻酔なしで歯石だけとるなら、大丈夫でしょうか?

実はそうではないのです。

私は、ある著名な歯科を専門に診療をなさっている先生(獣医師ならお名前を知らない人はおそらく居ないでしょう)に実際にお話を伺ったことがあります。

あるわんちゃんが、「一度咥えたドックフードをポロッと落とす」ことが増えたため口が痛いのではないかと診察に来たそうです。

その子は「ハンドスケーラ」で定期的に歯石取りをしている子で、見た目にはとてもキレイな歯をしていたそうです。

診察で、その子の歯のレントゲン検査してみたところ、ほとんどの歯根部は壊死しており、歯槽骨(歯を支えているアゴの骨)が溶かされてしまっていることがわかりました。

獣医歯科の専門の先生がこのような経験をしていることからも、かりに「美容」目的であっても、安易に実施されるものではないようです。

なぜでしょうか?

長い期間にわたるハンドスケーリングによって歯の表面にキズが付き、部分的にエナメル質の欠損が生じてしまし、そこから歯自体に感染が広がり、歯髄にまで達し、ついには歯の根っこまで蝕んでしまったためと思われます。

その子は、ほぼ全部の歯を失うこと(抜歯処置)になってしまったそうです。

これはとても悲しいお話しだと思うのです。

飼い主さんは「良かれと思った」行為だったわけですから。

 やはり、歯を痛めないためには、流水を充分に用いた超音波スケーラーで、歯に対して優しく行う必要がありますし、歯周ポケット内を十分に探査し、歯周病に対する処置(ルートプレーニングやキュレッタージなど)を行う必要があるということになります。

すなわち、ハンドスケーラで全ての歯、全ての部分の歯石を「歯を痛めずに優しく」取ることは限りなく不可能に近いと思います。

 

◎私は、歯の診察時にはよく、車に例えてお話しをしています。

愛車の修理・点検は、洗車だけすれば充分でしょうか?

エンジン、タイヤ、ボディの異常はチェックなしで大丈夫でしょうか?

歯科処置についてもご相談ください。

さいたま市 武内どうぶつ病院