猫の鼻腔内腫瘍(鼻腔内リンパ腫について)2025年

※※この記事の他に、同じ「症例報告」のカテゴリー内に「猫のリンパ腫」の記事を書いております。そちらもご参考になさって下さい。
「鼻腔内のがん」の患者さんに出会うたびに、「なんとかしてあげたい!」と思います。鼻腔内腫瘍はその多くが局所浸潤性が高いため、
顔や眼といった隣接する部位に変形を生じることがあります。
ご家族さまが、愛する我が子の顔形が変わっていく様子をみることは、大変お辛いと思うのです。
癌には色々な種類があります。
まずはじめに、鼻腔癌(がん)についてですが、「腺癌」や「扁平上皮癌」「未分化癌」などが多くみられ、その他に肉腫 (にくしゅ)と呼ばれる「線維肉腫」「軟骨肉腫」や「骨肉腫」などが生じます。
鼻腔内の腫瘍は犬は「腺癌」、猫は「リンパ腫」が統計的に多い腫瘍です。
犬で鼻腔内リンパ腫の発生はきわめて稀であると報告されています。
症状としては、「くしゃみ」「鼻水」だけのこともありますが、「鼻づまり」、一般に「鼻出血」を伴うことが多く、進行すると「お顔や鼻の腫れ」が生じてきます。
※ 猫の鼻が腫れる!鼻血がでる!だから「リンパ腫」とは言い切れません。
前述したように、猫の場合ですと、「腺癌」のこともありますし、腫瘍でないこともあります。
たとえば感染症である「クリプトコッカス症」や「重度の鼻炎や異物による炎症」、「歯の炎症が鼻に波及」、全身性疾患である「血液凝固機能の異常」や「高血圧」などなど
色々の可能性があります。リンパ腫と決めつけないことも非常に大切です。
猫の鼻腔内リンパ腫の場合の治療は、放射線療法や化学療法となります。これが、他の鼻腔内腫瘍と決定的に違う点です。
だからこそ、治療前の診断をキッチリしておきたい。リンパ腫なのか癌腫なのか肉腫なのかによって戦い方が違ってきます
「リンパ腫」はそもそもが血液系腫瘍であり、通常はリンパ節やリンパ組織などに病巣が認められますが、リンパ節以外の場所として鼻腔内に発生することがあります。
このように、リンパ節以外の場所に発生するものを「節外型リンパ腫」と呼んだりします。
今回、猫ちゃんの鼻腔内腫瘍の当院での1例をご紹介します。
実は、仔猫の時から、慢性の鼻炎症状を示していた子ですが、
最近になり、鼻血を出すこともあり食欲が落ちてきた為ご来院いただきました。
猫ちゃんの鼻梁(鼻筋)は通常へこみがありますが、へこみがなく、腫れています。右目の上も腫れています。
ノッペリとした外貌に変わっています。
臭いも判りにくくなっているようですし、何より鼻呼吸がしずらいために食欲も落ちているようです。
ご家族様に、鼻腔内に鼻炎以外の病態が生じているお話しをさせていただき検査をおすすめいたしました。
一週間後の再診時のお顔です。たった7日しか経っていませんが、明らかに進行しています。鼻孔をみると出血の跡がありますし、何よりも右の眼が外側に変位しています。
やはり単なる慢性鼻炎では説明がつきません。
この時点で、腫瘍の存在確率はかなり高くなっています。
細胞診(生検)の結果「リンパ腫」と判明しました。
抗がん剤治療には、何の薬をどの量でどの回数使っていくか(プロトコール)は色々なものがあります。今回は「変更型NCSUプロトコール」を用いました。各種抗がん剤を週替わりのメニューのように使っていきます。
抗がん剤治療 に同意いただいた、ご家族さまのご決断に感謝申し上げます。
抗がん剤投与した、その日の夕方の写真です。抗がん剤投与開始して、わずか数時間ですが、少しお顔の腫れが引き始めました。
特に右頬の腫れが取れてきて、右目の充血もひいてきたようです。
(抗がん剤が効いたと判断するには時期尚早です。おそらく消炎作用の結果と思います)
7日ごとに通院していただき、抗がん剤プロトコールに沿って治療をしていくことになりました。
再診までの間は、飲み薬も併用します
抗がん剤投与後、7日目の写真です。お顔が元にもどってきました!!
うれしいですね。鼻のシコリ部分も縮小しています。
ご飯もよく食べるようになってきました。
上は14日後の写真です。わずかに残っていた鼻筋の所にあった盛り上がり(一週間後の三枚目の写真)も消失しています。
鼻の中に残っているがん細胞を、少しでもたたいてしまいたいところです。
抗がん剤の副作用をモニターしながら、注意深く投与していきます。
最後の写真は、抗がん剤投与開始から6週後のものです。
鼻筋もへこみ、猫らしい顔つきを取り戻すことが出来ました!!!
全ての猫の患者さんがこの子のような経過をたどるわけではない事をご理解いただきたいですが、
「リンパ腫」と言われて「がんだから、もうダメだ!」とあきらめないで頂きたいと思うのもまた事実です
★まとめ
リンパ腫は、化学療法や放射線による治療によく反応することがあります。
この猫ちゃんは、幸運にも「寛解」(見かけ上、がんが消失したもの。けして「完治」ではありません)に至ることができました。
なるべくこの状態が、長く続いてくれることを願い、抗がん剤投与を続けています。
「放射線照射」という治療もあります。鼻腔内リンパ腫の第一治療法と言ってもよいでしょう。
しかし大学病院などの限られた施設でしか実施できないのが実情ですし、どのご家族さまも気軽に選択できるものではない事も事実です。
追記1
先日、腫瘍を専門に診察されている先生が話されていたのですが、「猫の鼻腔内リンパ腫」の治療にはこれがBEST!というのは判っていないそうです。
報告にばらつきもあるようですが、おそらく「放射線と抗がん剤の併用療法」が今のところベストなのではないか!?という段階だそうです。
追記2
猫の鼻腔内リンパ腫には、2つのタイプがある?
データもなく、病理メカニズムも判っていませんが、猫鼻腔内リンパ腫には治療反応について2つのパターンがありそうです。
すなわち、「抗がん剤がわりとよく効いて、ある程度の期間寛解(見た目には正常に見える)が持続するタイプ」と、
抗がん剤が効いた!と思ったら早々に再燃してしまい、「ごく短期間しか効果が持続しないタイプ」があるようです。
追記3
リンパ腫は体の色々な所に生じます。出来ないところは無い?といっても良いくらいです。
上記の内容はあくまで「猫の鼻腔内リンパ腫」についてです。リンパ腫は出来る部位によっても、その治療法、化学療法(抗がん剤)のやり方が違ってきます。
当然、犬と猫でも違ってきます。
追記4)現在、同じ鼻腔内リンパ腫の猫ちゃんが抗がん剤治療中です。このこも幸いに寛解にもっていけそうです。
放射線照射が有効であるものの、やはり多くのご家族さまが時間的、距離的なご事情もあり実施できないことも多いようです。
追記5)
※※※放射線治療をご希望の患者様には、専門施設をご紹介しておりますので、ご相談下さい。
埼玉県内では「日本小動物医療センター」(所沢市)や「どうぶつの総合病院」(川口市)などで実施可能です。
(当院でもリンパ腫ではございませんが、わんちゃんの脳腫瘍で現在当院の患者様が放射線治療を受けて頑張っています)
さいたま市 大宮区 武内どうぶつ病院 獣医がん学会認定「獣医腫瘍科認定医Ⅱ種」武内弘之