猫の鼻腔内腫瘍(鼻腔内リンパ腫について)◎◎追記あり

※※この記事の他に、同じ「症例報告」のカテゴリー内に「猫のリンパ腫」の記事を書いております。そちらもご参考になさって下さい。

「鼻腔内のがん」の患者さんに出会うたびに、「なんとかしてあげたい!」と思います。鼻腔内腫瘍はその多くが局所浸潤性が高いため、

顔や眼といった隣接する部位に変形を生じることがあります。

ご家族さまが、愛する我が子の顔形が変わっていく様子をみることは、大変お辛いと思うのです。

一般的に、鼻腔内に発生した腫瘍は可能であれば、外科手術を実施します。しかし、再発率が高いのも現状としてあります。また、抗がん剤治療の反応もけしてよくありません。しかし、癌が「リンパ腫」の場合には状況が少し違ってきます。

まずはじめに、鼻腔癌(がん)についてですが、「腺癌」「扁平上皮癌」「未分化癌」などが多くみられ、その他に肉腫 (にくしゅ)と呼ばれる「線維肉腫」「軟骨肉腫」や「骨肉腫」などが生じます。

鼻腔内の腫瘍は犬は「腺癌」、猫は「リンパ腫」が統計的に多い腫瘍です。

犬で鼻腔内リンパ腫の発生はきわめてマレであると報告されています。

症状としては、「くしゃみ」「鼻水」だけのこともありますが、「鼻づまり」、一般に「鼻出血」を伴うことが多く、進行すると「お顔や鼻の腫れ」が生じてきます。

※ しかし、猫の鼻が腫れる!鼻血がでる!だから「リンパ腫だ!」とは言い切れません。

前述したように、猫の場合ですと、「腺癌」のこともありますし、腫瘍でないこともあります。

たとえば感染症である「クリプトコッカス症」や「重度の鼻炎や異物による炎症」、「歯の炎症が鼻に波及」、全身性疾患である「血液凝固機能の異常」や「高血圧」などなど

色々の可能性があります。リンパ腫と決めつけないことも非常に大切です。

追記終わり

 冒頭でお話ししたように、多くの鼻腔内癌の治療が外科手術であるのに対し、リンパ腫の場合の治療は、放射線療法や化学療法となります。これが、他の鼻腔内腫瘍と決定的に違う点です。

そして時に、劇的な良化を示す子もいます。

実は、この「リンパ腫」はそもそもが血液系腫瘍であり、通常はリンパ節やリンパ組織などに病巣が認められますが、リンパ節以外の場所として鼻腔内に発生することがあるのです。このように、リンパ節以外の場所に発生するものを「節外型リンパ腫」と呼んだりします。

ちなみに、猫の鼻腔が腫れた場合、その原因の約半数は「節外型リンパ腫」であったとする論文報告があります。

今回、猫ちゃんの鼻腔内腫瘍(節外型リンパ腫)の当院での例をご紹介します。

実は、仔猫の時から、慢性の鼻炎症状を示していた子ですが、

最近になり、鼻血を出すこともあり食欲が落ちてきた為ご来院いただきました。

猫ちゃんの鼻梁(鼻筋)は通常へこみがありますが、へこみがなく、腫れています。右目の上も腫れています。

ノッペリとした外貌に変わっています。(鼻腔内に異常があるサインです!)

臭いも判りにくくなっているようですし、何より鼻呼吸がしずらいために食欲も落ちているようです。

ご家族様に、鼻腔内に鼻炎以外の病態が生じているお話しをさせていただき検査をおすすめいたしました。

とりあえず一週間考えていただき、抗生剤の処方をいたしました。

 

一週間後の再診時のお顔です。たった7日しか経っていませんが、明らかに進行しています。鼻孔をみると出血の跡がありますし、何よりも右の眼が外側に変位しています。

やはり単なる慢性鼻炎では説明がつきません。

この時点で、腫瘍の存在確率はかなり高くなっています。

幸いにも、くしゃみをした際に出血し、わずかですが組織片が採取されたため、細胞診をしたところ「リンパ腫」と判明しました。

 

ご家族さまに、リンパ腫の場合には外科手術ではなく放射線や、抗がん剤による治療が選択されることをお伝えしまし、

さっそく、その日の昼から入院し抗がん剤治療を開始しました。抗がん剤治療には、何の薬をどの量でどの回数使っていくか(プロトコール)は色々なものがありますが、今回は、「変更型NCSUプロトコール」を用いました。これには、ざっと「プレドノゾロン」「L-アスパラギナーゼ」「シクロフォスファミド」「ビンクリスチン」「ドキソルビシン」などの抗がん剤を週替わりのメニューのように使っていきます。

抗がん剤治療 に同意いただいた、ご家族さまのご決断に感謝です。

抗がん剤投与した、その日の夕方の写真です。抗がん剤投与開始して、わずか数時間ですが、少しお顔の腫れが引き始めました。

特に右頬の腫れが取れてきて、右目の充血もひいてきたようです。さっそくよい徴候が現れました。

翌日には退院し、7日ごとに通院していただき抗がん剤投与をしていくことになりました。

 

 

再診までの間は、飲み薬も併用していただきました。

抗がん剤投与後、7日目の写真です。お顔が元にもどってきました!! うれしいですね。鼻のシコリ部分も縮小しています。

かなり劇的に良化しています!! ご飯もよく食べるようになってきました。

 

上は14日後の写真です。わずかに残っていた鼻筋の所にあった盛り上がり(一週間後の三枚目の写真)も消失しています。

鼻の中に残っているがん細胞を、少しでもたたいてしまいたいところです。抗がん剤の副作用をモニターしながら、注意深く投与していきます。

 

最後の写真は、抗がん剤投与開始から6週後のものです。 

鼻筋もへこみ、猫らしい顔つきを取り戻すことが出来ました!!!

もちろん、全ての猫の患者さんがこのように良く効くわけではないことは、ご理解いただきたいですが、

「リンパ腫」と言われて「がんだから、もうダメだ!」とあきらめないで頂きたいと思うのです。

 

★まとめ

リンパ腫は、化学療法や放射線による治療によく反応することがあります。

この猫ちゃんは、幸運にも「寛解」(見かけ上、がんが消失したもの。けして「完治」ではありません)に至ることができました。

なるべくこの状態が、長く続いてくれることを願い、抗がん剤投与を続けています。

「放射線照射」という治療方法もありますが大学病院などの限られた施設でしか実施できないのが実情ですし、どのご家族さまも

気軽に選択できるものではありません。(地理的・経済的理由が大きいと思われます)

◎追記1

先日、腫瘍を専門に診察されている先生が話されていたのですが、「猫の鼻腔内リンパ腫」の治療にはこれがBEST!というのは判っていないそうです。

報告にばらつきもあるようですが、おそらく「放射線と抗がん剤の併用療法」が今のところベストなのではないか!?という段階だそうです。

◎追記2

猫の鼻腔内リンパ腫には、2つのタイプがある?

データもなく、病理メカニズムも判っていませんが、猫鼻腔内リンパ腫には治療反応について2つのパターンがありそうです。

すなわち、抗がん剤がわりとよく効いて、ある程度の期間寛解が持続するタイプと、

抗がん剤が効いた!と思ったら早々に再燃してしまい、ごく短期間しか効果がえられないタイプがあるようです。

◎◎◎追記3

リンパ腫は体の色々な所に生じます。出来ないところは無い?といっても良いくらいです。

上記の内容はあくまで「猫の鼻腔内リンパ腫」についてです。リンパ腫は出来る部位によっても、その治療法、化学療法(抗がん剤)のやり方が違ってきます。

当然、犬と猫でも違ってきます。冒頭で「リンパ腫には外科手術ではなく抗がん剤や放射線が選択される」と記しましたが、消化管内リンパ腫のあるタイプでは

抗がん剤開始前に外科手術を行った方が予後が良いという報告もでています。

 

大切なのは、当院の理念でもある「この子に何をしてあげられるのか?」

「ご家族様の為とは何なのか」をそのつど考慮することだと感じています。

腫瘍(がん)の抗がん剤治療についてもご相談ください。さいたま市 大宮区 さいたま新都心 見沼 の武内どうぶつ病院です。

 

◎◎◎◎追記4)現在、同じ鼻腔内リンパ腫の猫ちゃんが抗がん剤治療中です。このこも幸いに寛解にもっていけそうです。

放射線照射が有効であるものの、やはり多くのご家族さまが時間的、距離的なご事情もあり実施できないことも多いようです。

◎◎◎◎◎追記5)

※※※放射線治療をご希望の患者様には、専門施設をご紹介しておりますので、ご相談下さい。この度、当院と同じ埼玉県で放射線治療が実施できることになりました。

所沢市にございます「日本小動物医療センター」に、今までの放射線治療機とは一段上の機器が導入されました。ご紹介することが可能です。(2018.9月に始動開始)

 

私自身も実際に施設に足を運び、見学に行かせていただきました!

なんと、こちらの施設での放射線治療科の獣医師は、私が所属していた大学病院に同じ時期に在籍していた「澤田治美先生」でした!

放射線治療を実施するには、獣医師ライセンスの他に・第1種放射線取扱主任者という資格が必要です。

澤田先生は、とても気さくな人柄の女性獣医師です。

 

当院の患者さまで放射線治療をご希望で、経済的、時間的な事情がゆるせばこちらの施設をご紹介しています。

もちろん、患者様のご意向を最優先してご紹介先は決定していますので、ご希望の施設があればご遠慮なくお話し頂ければと思います。

さいたま市 武内どうぶつ病院