◆「子宮蓄膿症の手術・術後管理」について

以前にも「子宮蓄膿症と尿管結石」の手術のお話しを書きましたが、今回は子宮蓄膿症単独のお話しです。

先日、食欲不振でわんちゃんが診察にいらっしゃいました。よくお話をうかがいましたところ、時々食事を吐いている事もわかりました。

血液検査、レントゲン検査、超音波検査(エコー)の結果、子宮内に膿がたまる「子宮蓄膿症」の可能性が高い事が判明しました。

ちなみに、陰部より「膿」を排泄している場合には「子宮蓄膿症」とほぼ確定診断できるのですが、排出の無い場合には、手術で摘出した子宮内に「膿」の存在を確認しない限りは、術前に子宮蓄膿症と100%断定はできません。

もしかしたら、膿ではなく、出血、粘液、新生物など膿以外が存在しているかもしれませんから。(※超音波所見で、だいたいの予測は付きます)

ご家族様に、病状をご説明し治療(手術)についてお話しいたしました。ご決断に感謝致します。

 

上は術中所見です。 (チューブ状に見えるのは、拡張した子宮です。この子の場合ですと、通常なら大人の小指程の太さです)

 

子宮蓄膿症は、昔からある病気で手術自体はそれほど難易度の高いものではありません。やることは「避妊手術」とほぼ一緒です。

しかし、拡張した子宮壁はとてももろく、慎重に扱わないと壁が破れて腹腔内に膿がもれていまいます。
時には、手術前の時点ですでに子宮破裂を起こしており、腹膜炎を併発している場合も少なくありません。
この場合には、速やかな対応が必要になり、術後管理がきわめて重要になってきます。
いわゆるICU扱いとなります。こまめな状況チェックと輸液管理が基本になりますが、DICと言って
生命の危機的状況に至ることも多いです。

DICは正式名「播種性血管内凝固 Disseminated Intravascular Coagulation」
といいますが、一般的な言葉で簡単に言えば「多臓器不全」状態と言ったらイメージがつくかもしれません。(※医学用語上は別もので同義語ではありません)

いずれにせよ、子宮蓄膿症は手術も重要ですが、それ以上に術後管理が極めて重要な疾患の代表であると私は思っています。術後は体液バランス、心拍数や血圧、尿量、などモニターしていくことが大切な疾患です。

「治療」

子宮蓄膿症は、なるべく早い対応が大切です。確定診断が下ったならは原則、様子を見る疾患ではありません。静脈点滴などで内科的に安定させてなら、手術がセオリーでしょう。

しかし、その子を取り巻く様々な要因で、手術が実施できない場合も現実には存在します。その場合には、現時点で「できる事」と「できない事」を見極め、それに対しての「メリット」と「デメリット」をご家族さまと話し合い、治療法を決定することになります。

 

「予防について」

子宮蓄膿症の予防は、早期の避妊手術につきるのですが、これも様々な事情で実施できなかったり、避妊手術を希望されなかったりする場合もあるでしょう。

犬猫に、避妊手術を受けさせないことは、決して悪ではありません。

避妊手術を実施しなくても、子宮や卵巣疾患にかかることなく寿命を迎える子もいるでしょう。

もっとも大切なことは、日頃の様子を十分にチェックしてあげることだと思います。

子宮卵巣疾患は、発情後に体調が崩れたり、食欲が落ちる、時々吐く、飲水量が増えるなどがわりとよく見られる症状です。
また、お年を召した出産経験の無い女の子に多いのも特徴です。毎年周期的にキチンと発情がきているか否かをみること。発情の後1〜2ヵ月は元気食欲が落ちてこないか、飲水量に違いは無いかなどをチェックしてあげることが大切でしょう。

「何かいつもと変だなぁ」と思ったら、お早めに受診をおすすめいたします!

さいたま市 武内どうぶつ病院