潜在精巣(停留睾丸)

実は、男の子の精巣と女の子の卵巣は同じ起源に由来しています。簡単に申し上げると、精巣も卵巣も同じ「元」の組織があって、男の子は精巣に女の子は卵巣になるということです。

この精巣に成る元の組織が、胎生期に男性ホルモン(アンドロジェン)の作用により生育しながら、腎臓の後ろあたりから、下腹へと移動して最終的に陰嚢へと入ることで完成されます。

通常、生後12か月たてば、触診で陰嚢内に精巣が触知できる状態になります。

もし、性成熟に達してもこれらがみられない場合には陰睾や潜在精巣(停留睾丸)と呼ばれます。左右両側の場合もあれば、片方の場合もあります。

精巣の陰嚢への移動が途中でほとんど移動せずに、お腹の中であれば「腹腔内陰睾」とか「腹腔内精巣」などと呼ばれます。

原因ですが、多くが遺伝性と考えられていますが詳細はよく分かっていません。

胎児期に精巣自体から産生されるアンドロジェンの分泌不足などが関与していると考えられているようです。

ちなみに、陰嚢に下降していない精巣は「精子の製造」がうまくいきません。

精子が産生できなかったり、活動性の悪い精子しか産生されなかったりします。

これは陰嚢内の精巣に比べて、それ以外の部位に存在している精巣周囲の温度が高いためと言われています。

同時に男性ホルモンの分泌も少ないとされていますが、分泌自体はされますので、発情徴候には異常が見られないのが普通です。

★一番問題になるのは、潜在精巣の精巣は、正常なもの(陰嚢内の精巣)と比べて「腫瘍の発生が高い」ということです。

ちなみに猫での潜在精巣の発生は少なく、その結果として生じる中高齢以降にみられる精巣腫瘍もかなり稀です。

診断★

猫の陰睾丸は触診で陰嚢内に精巣が2つないことが確認されれば、容易に診断はつきますが、

重要なのは、どこにとどまっているか?です。

特に下腹領域の脂肪にうもれていることも多く、正常の精巣に比べて大きさも小さいことが多く、触診だけでは場所の診断がつかないことも多いです。

留まった精巣がどこにあるのか確かめる為に、超音波検査(エコー)を実施することもあります。

下腹領域や腹腔内、特に腎臓の尾側から膀胱の背側部にかけて入念に精巣の存在を追っていきます。

●治療

陰嚢内に移動できなかった精巣を摘出することになります。

一般に高齢になるほど腫瘍が発生しやすくなりますので、その前までに手術をしてしまうことがおすすめです。高齢になれば相対的には麻酔リスクも高まってきますので、一般的な去勢手術の際に、同時摘出をしてしまうことが現実的かもしれません。

当院でのねこちゃんの症例です。(猫ちゃんの「潜在精巣」は犬と比べて少ないです)

★右下に寝ている猫ちゃんのおしりのアップの写真です。左の陰嚢(写真では上側)に膨らみが無いのがわかります。もちろん、触診でも陰嚢内に一個しか精巣が触知されません。

手術で取り出している「潜在精巣」です。場所はそけい部でした。

下の写真:左側が陰嚢に入っていた正常の精巣。写真右側が「潜在精巣」です。

右側の精巣は、発育不全であることがわかります。

※補足(「精巣の腫瘍」について)

1 精上皮腫(セミノーマ)

2 セルトリー細胞腫  、

3 間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)の3種類が知られていますが、潜在精巣の場合の腫瘍は、前2者が多いと言われており、その中でもセルトリ細胞腫の

発生が高いと報告されています。