角膜炎が治らない!?(自発性慢性角膜上皮欠損症:SCCEDs)
眼を引っ掻いたなどの単純な角膜炎は、7日間ほどの治療で通常は良化していきます。
しかし、時にはオーソドックスな治療では治らない、または直ぐに再発してしまうタイプの「角膜炎」があります。
一言で角膜炎と言っても、いくつもの分類がなされていてその原因もさまざまです。
その1つに「潰瘍性角膜炎」といって、角膜自体に欠損を生じるものがあります。
程度の軽いものから、角膜に大きな欠損を生じるものなど様々です。単純性のものならば、標準的な治療で5日~7日で治っていきます。
しかし、色々なファクターで角膜炎が治りにくいものがあります。
たとえば、
どうぶつがご家族さまが気づかないところで眼を擦っている。
睫毛(まつげ)の異常がある。
結膜内に異物がある。
まぶたの形態学的異常やマイボーム腺異常がある
眼に関与する神経疾患の存在(顔面神経や三叉神経)
ドライアイがある
眼以外の内科系疾患が背景に隠れている
などなどで、角膜炎はよく遭遇する疾患ですが、奥が深く一筋縄ではいかないこともある眼病です。
そのうち、「SCCEDs」(スケッズ)という病態があります。
英語ではSpontaneous chronic corneal epithelial defects :SCCEDsと表記されます。
日本語では「自発性慢性角膜上皮欠損症」という訳語が当てられていますが、「特発性慢性角膜上皮欠損」と呼ばれたりもします。
獣医さんは「スケッズ」とい呼ぶことが多いです。
ほぼ同意語として、ボクサーという犬種に多いので「ボクサー潰瘍」と呼ばれたり、「再発性上皮びらん」と表現したりします。
また、治りが悪いので「難治性角膜潰瘍」とも呼ばれることがありますが、原因が別にあるものもあるので、難治性角膜潰瘍すべてが、SCCEDsというわけではありません。
むしろSCCEDsは深い潰瘍病変を引き起こすことはなく、表層部の角膜潰瘍で治りにくかったり、再発しやすいのが特徴です。
上記のように、ボクサーに多く私自身もボクサー犬で数頭SCCEDsの病態に遭遇したことがあります。
ボクサー自体がそう数多く飼育されている犬種ではありませんね。
私自身はヨークシャテリア、コーギー、ラブラドール、チワワなどでSCCEDsを経験しています。
このSCCEDsの正体ですが、簡単に言うと角膜の表面の膜(角膜上皮基底膜)が下の層(角膜実質)とうまく接着できないことが原因です
◎治療について
SCCEDsをあえて例えて表現するならば、車のボディーをこすってしまい、塗装膜が剥がれてしまったとします。
そのキズをご自分で修繕を試みた経験のある方もいらっしゃると思いますが、なかなかうまくいかないことがありますね。
キズの表面に塗料を塗って修復したものの、すぐに剥がれてしまい下の塗装膜が顔を出してしまい元の木阿弥。
こんなことなら、最初からプロにまかせておけばよかったかなー。
SCCEDsは簡単に言うとそんな状態です。
車屋さんの場合、キズのみならずその周辺にもグラインダー(ヤスリのようなもの)をかけてキズを滑らかにならし、あらためて
塗装します。そうすることで凹凸もなく滑らかな仕上がりになるようです。
SCCEDsの治療も同じ様な考え方です
キズの範囲だけでなく、それよりも広い範囲で「不完全に増殖した角膜上皮」を剥離してキズが治る下準備をしてあげます。
すなわち、目薬の治療だけではなく「外科的治療」を施す必要があります。
外科というと全身麻酔が必要というイメージですが、必ずしも全身麻酔をせずに実施できるタイプもありますので
病状やわんちゃんの性格、年齢などを加味してどのような外科処置にするか考えていきます。
当院ではまず最初は、点眼麻酔薬を用いて(全身麻酔はせずに)実施を試みています。
SCCEDsの外科治療において、1回の実施で完治までもっていけることもありますが、通常数回の実施が必要になります。
当院での例を一部ご紹介します。
術後は犬用の治療コンタクトレンズを装着します。(角膜保護作用と、眼の痛みの軽減作用があります)
点眼としてヒアルロン酸や抗生剤、内服薬として消炎剤や抗生剤などを使用します。
★以下の様などうぶつ用のコンタクトレンズが獣医さん向けに販売されています。
下は角膜染色検査をおこなった写真です。ダメージを負った角膜部分が緑色に染まります。
緑色に染まった患部をよく観察すると、辺縁がにじんだようになっています。
さらに良く見ると辺縁は一部めくり上がったようになっており、ちょうどカサブタ状になっています。
れが、角膜上皮と実質との接着がルーズになってしまっているがゆえに見られる所見となります。
SCCEDsが強く疑われる所見です。
疑われるというのは、この所見ダケでは、SCCEDsと正式に診断できません!!
背景に基礎疾患が隠れていたり、ドライアイや角膜変性症などの鑑別すべき疾患がありますので注意が必要と言えるでしょう
当然、他の疾患があればそちらが診断名になります。
治療後の写真です。
角膜炎についてもご相談ください。 さいたま市大宮区 武内どうぶつ病院