★ 膵炎の診断、治療、薬について

症状としては、元気消失、嘔吐、下痢などの消化器症状、動きたがらないなどのどことなく元気がないなどの様子の変化があったりしますが、

これが膵炎の症状だ!と呼べる特異的な症状はありません。(正一番多く認められるのが、消化器症状と言われています)

★膵炎の検査

膵炎の検査は症状およびその経過、身体検査、血液検査、画像検査などで、総合的に診断します。特に膵炎の分野では、血液検査に近年大きく進歩がありました。

リパーゼという膵臓の成分がどれだけ血中に漏れ出ているのかを測定する検査があります。

ごく簡単い言えば、膵臓が傷ついていれば、多くのリパーゼが血液中に漏れ出ているので、これを測定しようと言うものです。

 

しかし、この「リパーゼ」は、膵臓以外にも胃や肝臓のリパーゼなど、膵臓以外にも存在しているため、膵炎で上昇しているのか?よくわからないという欠点がありました。

そのため、昔は「リパーゼ測定」の意義が薄かった時代があります。

最近では、膵臓特異的リパーゼといい膵臓専門のリパーゼを測る技術が進歩したため、「昔のリパーゼ」とは精度が比べものにならないくらい上昇しています。

 

その代表格が、Spec cPL(犬)Spec fPL(猫)といわれるものであり、免疫学的手法で膵臓だけのリパーゼを測定できます。

また、膵臓に特化したリパーゼを測定する「v-Lip」という検査も登場し、Spec cPLとの高い相関性が確認されています。

 

★当院では、まず「v-Lip」を測定しています。(猫ちゃんの場合にはSpec fPLを同時に測定することが多いです)

 

また、画像検査ではレントゲン検査、超音波画像診断が重要です。

特に超音波検査(エコー検査)は膵炎診断に大きな力を発揮します。

先にお話しした「Spec cPL(犬)Spec fPL(猫)やv-Lip」などの血液検査で異常値がでたとしても、必ずしも膵炎とは限りませんし、もしかしたら

膵炎に加えて他の併発疾患があるかもしれません。

更に言えば、もしかしたら膵炎は二次的に発生したもので、責任病変は他にあるかもしれません。

こういった疾患を逃さないようにするのが、ご家族さまからのお話しであったり、身体検査や症状、そして画像検査だと思います。

上は超音波検査の画像です。の真ん中におにぎり形に見えるのが膵臓の左葉と呼ばれる、胃の裏側にある膵臓の部分です。

周りが白く明るく見え、中(膵臓実質)は暗く見えています。また膵臓自体が腫れています。

(膵臓には右葉と呼ばれる十二指腸の側にある膵臓もあります)

この画像で、かつSpec cPLやv-Lipが高値なら、膵炎と診断して治療を開始しています。

 

※ 慢性膵炎は、おおむね通院治療になります。また、詳細は次回以降に書こうと思いますが、診断もけして容易ではありません。

また、猫の慢性かつ軽度の膵炎は診断に苦慮します。

 

★膵炎の治療

急性の場合には命に関わる疾患となります。

膵炎は「多臓器不全」に以降しやすい疾患であり、(程度にもよりますが)

入院治療が必要です。

・輸液(点滴)

極めて重要な治療と考えています。

膵炎の子達は、おおむね脱水を起こしていることが多いのでその改善の目的もあるのですが、点滴の重要性はこれだけではありません。

膵臓のみならず他の臓器へのダメージを軽減するためには、栄養や酸素、薬剤を各臓器に届けねば成りません。これらの物を届けるのは血液です。

だからこそ、充分量(これが大切!)の血液循環量を確保してやる必要があると考えます。こちらの目的の為に輸液を行う意味合いが強いです。

・痛み止め

膵炎は痛みを伴うことが言われています。

痛みは、消化管の動きを抑制しますし、食欲も起きません。

また、痛みは末梢循環も低下させますので、積極的に痛み止めをつかうことが

推奨されています。

・吐き止め

膵炎の多くに嘔吐が認められます。また吐き出さなくても、嘔気がある場合も多々ありますので、「制吐剤」を使用します。

・抗生剤

膵炎に対しての抗生剤の治療の必要性については、議論のあるところです。

一般的に言えば、膵炎に細菌感染が関わっている率は少ないとされていますので、抗菌剤使用については、その子によりケースバイケースだと思います。使用する場合には、膵臓への移行性の良い製剤を選んで使用しています。

・タンパク分解酵素阻害剤

膵臓から漏れ出た酵素をブロックして、他の臓器へのダメージを抑えるお薬です。人間の方でも使用については議論されています。犬猫では科学的根拠は高くないとされているようです。

 当院では、「急性膵炎は命に関わる疾患」という認識を強く持っていることと、やれることは早期になんでもやるというスタンスをとっている為、使用しています。

・ステロイド

これもまた議論のあるところのお薬です。

膵炎治療にスタンダードに使用すべし!と書かれている書物はないのではないかと思います。

しかし、膵炎にステロイドを使用してはダメというエビデンスもないと思います。当院では標準治療薬としては使用していません。ケースバイケースです。

最後に、「膵炎」特に急性膵炎は、命に関わる疾患ですので、早期にアグレッシブな(攻めた)治療が必要だと思っています。

そうすることで、多臓器不全を回避し、膵臓の壊死を食い止めることができる(かもしれません)。

本当に酷い急性膵炎は、午前中に診断がつき治療を開始しても夕方には多臓器不全に至ってしまう例も経験しています。

 

また、血液検査で膵炎かな??と思っても、各種検査してところ他の疾患であった場合もあるので、なかなか頭を悩ます疾患です。

消化器症状でも改善なければ、様子をあまり見ずに早めの診察をおすすめ致します。

さいたま市 大宮区 武内どうぶつ病院