◆会陰ヘルニアについて◆

会陰ヘルニアは雄のワンちゃんで、去勢手術の経験がなく、お年がいっている子に多く発生します。最近ですと、ダックスやコーギーに多く発生する傾向にあります。「ヘルニア」というと椎間板ヘルニアが有名?ですが、ヘルニアという名前がついた疾患は他にもあります。「会陰ヘルニア」は肛門や尾の周囲の筋肉組織が萎縮し、特に「肛門挙筋」が消失することによって症状が現れます。さらに直腸の「肛門括約筋」の能力が低下していきます。それにより肛門自体が骨盤腔内から尾側に変位していきます。

会陰ヘルニアの病態に大きく影響している要因として、未去勢の為に男性ホルモンの分泌バランスが崩れていることが大きいと言われていますが、発生は多因子であると言われています。

※「去勢手術のメリット」としてこの会陰ヘルニアの発生予防が言われています。

 

初期には、お尻の穴を正面に見て、その両サイドがポッコリと盛り上がってきます。(片方しか気づかない事もあります)
症状としては、便のキレが悪い、便秘ぎみなどが多い症状ですが、何も症状をしめさない子も多く動物病院で身体検査の時に発見されたりします。酷くなると、便が出なくなりおしりが大きく腫れてきます。

上のコは重度の会陰ヘルニアです。肛門は「ひょっとこ」の口のように変位し、大きく変位してしまっています。

数年前に他の地域で、シリコンインプラントを用いた会陰ヘルニアの手術をうけたそうですが、後に再発したものの飼い主様が

そのまま経過を観察していたそうです。

状態は、会陰ヘルニアというよりも、肛門虚脱と呼んだ方がよいかもしれません。

当然ですが、すでに自力では排便できなくなっています。定期的に肛門から指を挿入し、便を掻き出す処置が必要です。(>_<)

 

この病気の発生は単純な理由ではなく、多くの病態を同時に起こしているために治療前に十分に検討する必要がある疾患といえます。すなわち、単なる「お尻の膨らみ」ではなく、その異常を引き起こしている要因は実に様で、軽度のものから命にかかわる状態に至っている子すら存在します。そのため、レントゲン検査、超音波検査、時には造影検査も必要になってきます。

たとえば、すでに膀胱が反転してしまい排尿障害をともなっている場合もあります。

その場合には、早急に手術する必要があると思います。「尿が出ない」=「生命を維持できない」ことになるからです。

治療
結論から言えば「なるべく早急な手術」につきると思います。
この疾患は必ずといって良いほど進行、悪化してきます。この診断が確定しているのならば、自然に良化する事はありません。

すなわち、様子を見ることは、悪化させていく事が多いということになります。(もちろん100%ではありません)

一時的に便を柔らかくするお薬等で、排便状況が落ち着く時期もあります。これには、ラキソベロン(ピコスルファート)やラクツロールなどが用いられます。また、昔は繊維分を多く含んだ食事が勧められていましたが、現在は便量を多くしてしまうので推奨されていません。(可溶性繊維であれば可)

しかし上述したように、この疾患は進行性ですので、期間があけばあくほど(長引かせると)手術は難しくなり、麻酔リスクも上がり、術後の再発率もあがりますので早期の手術が必要です。

 

手術方法も色々なものがあります。

〇内閉鎖筋をもちいた整復術

〇浅臀筋や半腱様筋をもちいた整復術

〇総鞘膜を利用した手術

〇シリコンでできたインプラントを挿入固定するもの

などなど、色々な手術方法が考案されています。その子の病状によっては、不向きの手術法もあり、手術法の選択は重要と考えています。

★当院では、その子の筋肉自体(内閉鎖筋転移術や浅殿筋転移術など)を移植して、ヘルニア孔をふさぐ手術方法を採用しています。
これは、去勢・避妊手術の記事でも書いたように、生体内に「異物」をなるべく残したくないという考えから、シリコンインプラントの使用はしていません。

私自身はこれを使った会陰ヘルニア手術を行った経験はありません。

その子の生体組織(内閉鎖筋、浅臀筋、半腱様筋など)を使う手術を好んでいます。

 

会陰ヘルニアの手術に先立って、もう一つの手術を先行して行っています。

それが「結腸固定術」です。

ヘルニアによって、肛門側に移動してしまった直腸、結腸を正常な位置(頭側方向)に戻してやる必要があります。(結腸固定術)

多くの場合、ヘルニアの手術に加えて結腸固定を行います。そうすることで、会陰ヘルニアの再発を低下させることができると考えています。

下の写真は、結腸固定術を行っているところです。

ルーズソックスのように肛門へと変位してしまった腸を、頭側方向にたくし上げて、腹壁に固定します。

 

 

続いてお尻側、つまり会陰ヘルニア孔の閉鎖手術に入ります。

切皮すると、直下に大きな「穴」=ヘルニア孔がみられます。※一番上の写真の子とは違う子の手術写真となります。

孔の奥にまで挿入できる間隙ができてしまっています。本来はココには筋肉がキチンとあって、直腸を支えているハズな所です。

 

上の写真で、鑷子=ピンセットでつまんでいるのが内閉鎖筋という筋肉です。これを移植して「ヘルニア穴」に当てがってふさぎ、腸の突出を防ぎます.

ちょうど、パッチをあてるような感じです。しかし、周囲の筋組織も萎縮しているため縫合する場所が限られます。

しかし時に、このパッチでは孔が大きすぎてふさがらないこともあります。

その時には、浅臀筋というお尻の筋肉を剥離して、もうひとつのパッチになってもらいます。

時に、半腱様筋という太ももの裏の筋肉を使うこともありますが、私の個人的経験では術後の少し跛行が生じることがあります。

 

下の写真の12時の位置でつまんで挙上しているのが、浅臀筋です。

 

 

下の写真は、会陰ヘルニアの術後、しばらくした後の写真です。

このように、後ろから見て肛門の斜め上(11時と13時あたりの位置)に「えくぼ」が見られるようになります。

私自身は、この「えくぼ」が術後にきちんと形成されるように手術できると理想かなと思っています。

会陰ヘルニアについてもご相談ください。

さいたま市 大宮区 武内どうぶつ病院