★副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
副腎皮質と呼ばれる臓器からコルチゾールの産生過剰が起こる病態です。犬における代表的な内分泌疾患の ひとつです。
副腎という小さな臓器が、ちょうど腎臓のそばに位置しているのですが、この臓器は生体に不可欠である、コルチゾールというホルモンを産生しています。コルチゾールは代表的なグルココルチコイドです。このホルモンは絶対に生体になくてはならないホルモンです。
このホルモンが出ないと、生きていくことができません。
ちなみに、このホルモンの分泌が減少してしまう疾患を、副腎皮質機能低下症「アジゾン病」といいます。
今回は「過剰」の話しです。
脳下垂体というのは、脳にあって、いわば副腎の監視役をしています。(脳下垂体にはその他にも色々な働きをしています)副腎から分泌されるホルモン量を調節しています。簡単に言えば副腎に
「オーダー」をだしているのですが、副腎皮質機能亢進症の多くが、脳下垂体の異常が原因で生じ正式には「下垂体性クッシング症候群」といいます。
●症状
コルチゾールホルモンが過剰となると多彩な症状や病変を起こしてきます。実際には、代謝異常、や易感染性、筋萎縮、異化亢進(コラーゲンの異化など)か起こります。
上記の病態が表に出てくる、すなわち「症状」として現れると、、。
多飲多尿(たくさん水を飲み、いっぱいおしっこをする)
皮膚症状(色素沈着、脱毛、石灰沈着、皮膚の菲薄化)
腹部の膨満(肝臓の腫大、腹筋の萎縮などによる)
呼吸が早い(呼吸筋の萎縮、肝臓腫大による圧迫などによる)
●検査(この疾患の検査には以下のような検査が行われます)
問診、一般身体検査。
血液検査・ホルモン検査
ACTH刺激試験、デキサメタゾン抑制試験(LDDST/HDDST)や画像診断(超音波・MRI)
検査についての詳細は省きますが、画像診断について簡単に記載しておこうと思います。
★下垂体の画像検査(頭部MRI検査)
特に、以前に比べて性格が大人しくなったり、ボーとするようになっている場合には要検査といえます。
これはクッシング治療中であっても、脳下垂体が腫大してくると生じるようになってきますので
要注意です。
★超音波検査(腹部エコー)
副腎の形態は保ったまま大きくなっている所見がみつかります。正常な形はピーナッツ型やコンマ型と表現される特徴的な形をしています。
ちなみに、いびつだったり、ボール状になっていたり、ゴツゴツしていたら
腫瘍性の変化を考えなければなりません。副腎腫瘍によるクッシングはAT(adrenal tumor:AT)
と呼び、前述した下垂体の ACTH 分泌過剰により発症する(下垂体性 ク ッ シ ン グ 症 候 群)とは区別されます。当たり前と言えば当たり前ですが、こちらは腫瘍ですので、見境無く副腎細胞が増殖するため産生されるホルモンも生体に必要以上に産生し続けることになります。
こちらの治療の第1選択肢は「外科手術」ということになります。
※ 副腎癌は大血管に浸潤しやすく、肝臓、リンパ節、 反対側副腎などに転移することもあります。血管壁が脆く変化しており、手術後も傷が治りにくいため、相当に慎重に事を運ぶ必要があります。
★一番重視し、かつ重要な大切な検査
一番大切な検査は何かと問われたならば間違いなく、ご家族さまからの「問診」と「身体検査」です。
けっして、血液検査や画像診断結果が問診と身体検査より重視されることはありません。
副腎皮質機能亢進症(クッシング)は血液検査や画像診断は、言わば「裏を取る」手段となります。
血液の値や画像(超音波)のデータが基準を満たしているだけでは、「副腎皮質機能亢進症(クッシング)」とは診断できませんし、見切り発車の治療開始は「危険」と断言できます。
★「下垂体性クッシング症候群」の治療
今までにはミトタンという治療薬が使われていましたが、現在一番メジャーな治療薬は「トリロスタン」でしょう。ケトコナゾールという薬も使われることがあります。その他カベルゴリンやセレギリンなども
検討されています。また、脳下垂体切除術という、いわば脳外科も実施されることもあります。
またまた話しはそれますが、ポメラニアンに生じやすい体幹部の脱毛症、通称「アロペシアX」と呼ばれる脱毛症があるのですが、その治療にも「トリロスタン」は使わることがあります。
多くの症例で発毛をみたと報告されていますが、こちらも慎重な投与が必要なことは言うまでもありません。
★当院での例
ご家族さまが来院した目的は、「最近、毛が薄くなってきた」という事でご相談にみえました。
よくみると、体の体幹部の毛が薄くなり、他の部分との差があります。
さらにお腹が張っている(下に垂れている)ように見えます。
多食と多飲もあるようでしたので、各種血液検査と、ホルモン関係の検査をおこないました。
同時に超音波検査をした画像がこちらです。
厚いところでは7mmを越えています。この子はチワワですので計測上は「大きなサイズの副腎」ということになります。
小型犬で、6mmを越えている場合には副腎過形成を強く疑う所見です。
後日、各種検査と症状を総合的に判断して「下垂体性 ク ッ シ ン グ 症 候 群」と診断しました。
現在、トリロスタン投与を開始したところです。
この薬は低用量にて開始しないと、かえって治療前より具合が悪くなったりするので定期的なモニターが不可欠です。
ホルモン疾患もご相談ください。 さいたま市 大宮区 見沼区 さいたま新都心 武内どうぶつ病院です。