犬猫の避妊手術と去勢手術。「縫合糸反応性肉芽腫」についても。

安全・安心の医療を目指して治療法に工夫をこらし

日々バージョンアップする獣医学に対応するように心がけています。

特に現代ではより安全でより安心できる医療が求められる時代になってきています。

ごく一般的な手術である。不妊手術(避妊手術・去勢手術)をとってみても

その中身は色々です。

不妊手術はどの病院(先生)でも、同じ内容で実施されていると思われるかも知れませんが実は違います。

 

目的は同じ不妊手術ですが、静脈確保や気管挿管の有無、術式、使用する麻酔薬・鎮痛薬の違い、入院の有無、手術で使う縫合糸など様々な方法があります。

その先生(病院)によって、色々な方法で実施されているのが避妊手術・去勢手術と言えると思います。

だからこそ料金も病院により、まちまちである理由の1つになっています

 

そして、近年問題にされているものに、「縫合糸反応性肉芽腫」(縫合糸関連肉芽腫)というものがあります。

手術に使用する糸には色々な種類があるのですが、手術に用いた糸が要因となり異物反応が起きることがあります。特にミニチュア・ダックスフンドに多く報告されています。私自身はその他に、プードル、マルチーズ、シーズ、Mix犬でも同様な疾患を拝見させていただいたことがございます。

「縫合糸反応性肉芽腫」は去勢手術では鼠径部(後肢の内側のつけ根部分)、避妊手術では卵巣や子宮断端に発症します。ここは正に、縫合糸を使用した場所であり、その「糸」に異物反応をおこして肉芽腫が発生したものです。患部の皮膚や皮下組織が赤く腫れてジクジクしたり、潰瘍になったり、膿が出てきたりとする症状があらわれることもあります。この場合には、「化膿性肉芽腫性炎症」といったりします。治療は内科、外科など様々な方法がありますが、重度になるととても困難です。治療法についてはいずれ書こうと思いますが、ここでは割愛いたします。

 

特に、非吸収性糸である「絹糸」(けんし)を使用した場合に縫合糸反応性肉芽腫の発生が多く報告されています。また、縫合糸の中に「撚糸」(よりいと)や「編み糸」(あみいと)というタイプがあるのですが、こちらも縫合糸反応性肉芽腫を生じやすいのでは?と言われています。

※ただし、現在のところ、糸が「縫合糸反応性肉芽腫」の真犯人とはまだ断言できていません。犬側の免疫の問題なのか?犬種特異性が強いだけなのか?

猫ではどうなのか?などまだ議論は尽きず、結論は出されていません

◎現実として上記の問題が存在することは確かです。よって当院では、これらの予防として、縫合糸反応性疾患のリスクが最小限になるよう以下のスタンスをとっています。

1.なるべく縫合糸を体内に残さない。そのために高周波手術装置「ERBE Vio300d」にBiClamp(バイクランプ)を装着し血管シーリングを実施。

2.縫合糸を使う場合は、撚糸(よりいと)や編糸(あみいと)は使用せず、「吸収性モノフィラメント」であるPDS-Ⅱ又はモノフィラメントのナイロン糸を使用する。

↑ バイクランプによる「血管シーリング」

◎バイクランプ:エルベ社の電気メス専用の器具で、組織ごと血管をクランプし、タンパクを凝固させて血管をシールすることができます。

言葉どうり「シール」されるため、血管は周囲の脂肪組織ごと密着シールされます。この方法では、縫合糸による結紮を行わないため、縫合糸肉芽腫の発生を防ぐことができ、

異物が残りません。また、手術時間も短縮できることから、麻酔時間の短縮にもなり動物の負担を減らすことができます。
これから避妊手術、去勢手術をお考えの飼い主さんもご相談下さい。

さいたま市 大宮区「武内どうぶつ病院」