猫の「注射部位肉腫」について(追記あり)

猫の「注射部位肉腫」は昔、「ワクチン誘発性肉腫」「ワクチン関連肉腫」と呼ばれていました。

この名称、あたかも「ワクチンが原因だ!」という感じがあり、しかも現在ではワクチン以外でも肉腫が生じることが判っていのるで

「注射部位肉腫」という呼び方がされています。

 

猫の「注射部位肉腫」について簡単に列挙すると。

  1. ワクチン接種後、腫瘍が発生するまでの期間は「4週から10年」と報告されています。(10年となると、本当にワクチンが原因かは良く分からないのが現実だと思います。)
  2. ワクチン接種後に発生した「しこり」が、4ヶ月後以上にわたり消退しない場合は、その後に肉腫が発生する危険性があるといわれています(他の報告ではワクチン接種部位の腫瘤が、接種後3ヶ月以上存在している場合や直径で>2 cm の場合また、接種後に4週間以上にわたり「しこり」の大きさが増大し続けている場合には、「検査」を行った方が良いとされています。)

3 「注射部位肉腫」を発現するネコの平均年齢は約10歳で、発生のピークは6-7歳と10-11歳にあり、好発品種の報告はないとされています。

4 頚部背側、肩甲間、胸背部側面、後肢、腰部背側のような、一般的に注射を打つ場所に一致して認められます。

(より腹側にも肉腫が発生することがあり、 これはワクチン接種部からワクチンが沈降性、つまり、薬液が染み込んだ所に発生しているからと考えられています)

  1. ワクチン誘発性肉腫の発生頻度は、10,000 頭当たり約1頭と言われています。(この「肉腫」が注目された当初は1,000頭に1頭という発生率だったようです。おそらく、各国の獣医師がワクチン接種について再考察した結果、発生率が下がったのでは?と言われていますが、ワクチン以外の注射でも、肉腫の発生は生じるとされていますので、これもまた一考察にすぎません。)
  2. 肉腫の発生と分化には様々なサイトカイン(TGF-βやGM-CSF、PDGF、EGF等)が関与していることが言われています。

7.注射部位肉腫は、様々な皮膚(皮下)細胞が由来となっていることがわかっています。「〜肉腫」という名前のあらゆる肉腫がコレに含まれます。例えば、線維肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、などなど。また、「リンパ腫」(リンパ肉腫)も発生することがあります。

  1. ワクチンに含まれている「アジュバント」が何らかの発生要因になっているのでは?と言われていました。

(補足)アジュバント中のアルミニウム成分が原因になっているのでは?と推察されていたのですが、その訳は、肉腫の病理検査でマクロファージという異物を食べる細胞の中に「ブルーグレーマテリアル」という、グレーや青に染まる物質が見られたそうです。病理学者が「何だコレ?」ということになり、それを、電子顕微鏡などを用いた各種リサーチをした結果「コレ」が、アルミニウムの成分だと推察するに至ったようです。

「何で猫の皮膚内にアルミニウム成分があるの?」ということになり、注射部位であったことから、「それってワクチンに含まれているアジュバントの成分なのでは??」と考えた研究者がいたようです。

この「ブルーグレーマテリアル」ですが、欧米の書籍「Feline Internal Medicine 7th.(猫の内科学)」の中の「 Feline Soft Tissue Sarcomas(猫の軟部組織肉腫)」のセクションに書かれている文章には、「blue-gray adjuvant material」という「アジュバント」という単語を含んでの記載がなされています。

「注射部位肉腫」が、過去に「ワクチン関連肉腫」とか「ワクチン誘発性肉腫」という名称で呼ばれていたのは上記経緯があったためのようです。

 

※ (注意)ただし繰り返しますが、「現在、猫の注射部位肉腫はワクチン以外の注射でも生じることがわかっています」し、「アジュバントを含まないワクチン」でも肉腫の報告があるので、上記の経緯だけでは「猫の注射部位肉腫」の真相解明というわけにはいきません。現に、大規模疫学研究において、「アルミニウム含有ワクチンが肉腫発生により高い危険性をもたらすという証拠はなかった」という結果がでています。

その後さらなる研究において、注射した部位に「壊死」が生じて、その後の結果それが「肉腫」へと変貌をとげるという考察もなされているようです。

 

★「猫の注射部位肉腫」の治療について

ワクチン関連肉腫(注射部位肉腫)の挙動は極めて悪く、発生した肉腫は周囲の組織に強い浸潤性を持っています。

それは「タコの足」のごとく、腫瘍の足が皮膚の下に長く延びているのが特徴です。これは、薬液が染みわたった為ではないかと言われています。

それは三次元的であり、奥にも浸潤しますので、背中に発生した肉腫の場合には脊椎(背骨)の一部までも削り取る必要さえあります。

また、転移の可能性もありすでに肺に転移を起こしている場合も多いとされています。

外科切除を実施する場合、どのラインまでメスを入れるのか?がとても大切です。上記の様に、「見た目のシコリ」だけを取るのは余り得策ではありません。現在では、「しっかり敵を知る」ことで手術マージンをどうとるか?という、より詳細な「戦略」を立てることができるようになってきています。

「どの範囲まで 腫瘍(肉腫)の手が伸びているか?」を知るには、造影CT検査が大変有効です。しかし、どの地域でもCTが容易に撮影できるわけではありませんので、その場合には「取れるだけ取る」というスタンスになろうかと思います。

というのも、大がかりな摘出手術を行っても、数ヶ月で再発するというデータもあり、いかに最初に「キチンと取れるか?」がその後の治療成績に大きく関わってくると言えるからです。

 

現在「猫の注射部位肉腫」の予防対策として(議論の余地はありますが)以下の事が考えられています。

  • 
ワクチンを接種する場合には、首や肩甲骨間などは避けること。

  • 多価ワクチン(例えば5種など)の使用を可能な限り減らすこと。

  • 非アジュバントのワクチンを使用すること。
  • アジュバント含有ワクチンを使用する場合は、アルミニウム系アジュバントの使用を避けること。

などになるかと思われます。

当院では「大学病院」や「がんの専門病院」との提携もしておりますので、ご紹介も可能です。

猫ちゃんの体に生じた、「シコリ」についてもご相談ください。

さいたま市 大宮区 見沼区 さいたま新都心 の「武内どうぶつ病院」です。