脾臓の腫瘍(過形成・血腫・血管肉腫など)
脾臓は、肝臓や腎臓と違って、少しなじみの薄い臓器かもしれません。
特に年齢が増すと、臓器の腫瘍は増えてくる傾向にあります。多くの場合外からでは臓器の腫大には全くと言っていいほど気づきません。ましてや元気や食欲などの症状もあまりでないことも多いです。
こんなときに、威力を発揮するのが超音波検査(エコー)です。※ 当院では定期的な健康診断として、画像診断(レントゲンや超音波検査)を組み入れた健診をオススメしています。
現在では超音波診断技術の進歩で画像所見から、ある程度の予想はたてられますが、肉眼で術前に良性or悪性を完全区別することはほぼ不可能です。
脾臓内におさまっている病変については、数ヶ月ごとに超音波検査にてモニターしていきますが、脾臓表面から盛り上がってきている病変の場合には摘出手術をオススメしています。脾臓原発性腫瘍の術前診断は難しいというのが、現状だからです。
摘出した臓器は病理検査を行い判断します。すなわち、いかに患者さんにダメージなく、脾臓を摘出するかにかかっています。
脾臓が悪性であった場合にはDICと呼ばれる生命に関わる危機的状況を引き起こしかねないので、手術前・後(周術期)に十分な対策を講じた上で実施する必要があります。術後も不整脈などをおこしやすく、気が抜けません。
手術する・しないを含め、外科手術の適応の見極めが大切です。
「脾臓にオデキができているようだから、サッサと取っちゃいましょう!」と気楽にはいかないのが脾臓の腫瘍です。事は慎重に進めねばなりません。
※補足(DICを簡単に言うと、全身に炎症が波及し、多臓器不全の状態に陥り、治療(消炎)が極めて困難な病状の事です)
特に、事前の検査は極めて重要です。血小板や血液凝固系の検査は脾臓や肝臓の手術には欠かせない検査です。もしこれらをせずに手術に踏み切れば時に「負け戦」となります。
★犬の脾臓の腫瘍には、「2/3ルール」とうものがあります。
1. 脾臓の腫瘤(※ 腫瘍ではない)は2/3が悪性腫瘍である。
2. 脾臓の悪性腫瘍のうち、2/3は血管肉腫である。
いかに、短時間で安全に脾臓を摘出するかはとても大切なファクターとなります。
当院では、高周波手術装置である、アムコ社のERBE VIO300Dと、BiClamp(バイクランプ)を用いた血管シーリングシステムを用いていてなるべく手術時間、麻酔時間を短時間で終えるように努めています。
これはインテリジェント熱凝固法というもので、コラーゲンとエラスチンが熱癒合されてシーリングされるものです。ERBE Vio300d(バイクランプ)は、とても頼もしい機器です。
◎脾臓摘出では、脾臓に入り込む沢山の血管を一本ずつ糸で縛って止血し、離断しなければなりませんが、このシステムでは血管を結紮すること無く、すばやく血管周囲の組織ごとシーリングできますので、短時間で脾臓を摘出できます。(脾臓の血管をバイクランプでシーリング処置しているところです)
超音波診断のとおり、脾臓表面から膨隆していました。病理結果は悪性腫瘍ではありませんでしたが、放置すると、リンパ組織がさらに融合してより大きな腫瘤を生じ脾臓破裂(突然死)を起こすというコメントを病理診断医よりいただきました。(脾臓摘出したあと、割面をいれたものです。エコー画像と一致した部位に病変があります)
手術後しばらくの入院となりましたが、今も大変元気にしています。(よかった!)
下は、術後当日の様子です。酸素室内に入院し、静脈に2ルートから各種薬剤を点滴しているところです。
★追記★
★話しは別の機会としますが、「血管肉腫」は犬の悪性腫瘍のうちかなり手強い悪性腫瘍です。「血管」の名の通り、他の色々な臓器、特に肝臓や肺、時に心臓にも腫瘤が同時に存在する事さえあります。戦略なしの治療(手術)では、こちらの負けは明らかです。時には手術をしないという選択肢も有ると思います。
血管肉腫の治療も切除可能病変は切除したのち、化学療法をおこないます。獣医の間では「血管肉腫の6ヵ月のカベ」というものがあり、色々な治療法が多くの研究者により試されていますが、なかなか生存期間の延長が難しいのが現状です。厳しい現状をあえて記載すれば、「血管肉腫と診断後、一年以内にお亡くなりになる」という事実です。こんな厳しい血管肉腫ですが、治療法の利点・欠点をご家族さまと十分に話あい、動物にとってもご家族さまにとってもより良い選択ができれば良いと思っています。(血管肉腫については、別の「症例報告」に記載予定です)
さいたま市 大宮区 武内どうぶつ病院