「肛門周囲腺腫」(お尻のできものはお早めに)

手術

肛門の周りには、肛門周囲腺と言う分泌腺が分布しています。

ヒトにも汗を出す汗腺という分布腺が皮膚にありますね。

これと似たようなものが、肛門の周りにあると考えるとイメージしやすいと思います

似たような言葉に「肛門腺」がありますが、これとは違います。肛門腺は独特な臭いをもつ分泌物が特徴で、トリミングやお手入れで絞ってもらっているわんちゃんも多いと思います。

肛門周囲腺腫は、この肛門周囲腺が腫瘍化したものです。肛門部位に派生する犬の腫瘍の約80%を占めると言われています。また、去勢をしていない男の子に多く出来ると言われています。

 

私も、未去勢の犬の肛門にできた腫瘤と聞けば、まずはこの腫瘍を思い浮かべます。

 

「肛門周囲腺腫」は、去勢していないオス犬に生じることが極めて多いです。男性ホルモン依存性と言われているので、去勢手術を同時実施することが推奨されています。また、肛門周囲腺腫を生じている犬には同時に精巣自身にも腫瘍が発生していることもありますので診察が必要です。

良性に分類される腫瘍ですが、、、、。

「肛門周囲腺癌」と呼ばれる悪性の腫瘤も発生します。

この2つ、外見を見ただけでは、厳密には区別できません!!

つまり切除手術をして病理検査をしない限り、確定診断名はつきません。

早めの手術をオススメする理由は診断を付ける為だけではありません。

肛門の周りには便が自然に出ないように肛門括約筋という筋肉でしっかり閉じています。

腫瘍が大きくなると、この筋肉を切除する範囲が大きくなる為、術後に排便障害が発生する可能性が高まるためです。

様子を見ていたらどんどん大きくなってしまって、、、。

すでに手術で切除するにはかなり大きな切除になってしまい、肛門自体はもちろん、直腸の一部も失うほどの大規模な手術になってしまうことがあります。

(もっと小さいうちに手術を実施しておけば、肛門を失わずに済んだのに、、(>_<) と思うことがあります)

その後のお世話も考慮すると、わんちゃんにとってもご家族さまにとっても負担の大きな日常になってしまいます。

 

肛門部にできたオデキは、安易に「痔」だろう!?と考えずに、なるべく早期に獣医さんの診察を受けることをおすすめします。

※ 犬はヒトや猿と違って、肛門が格納される動物です。犬にはヒトの「痔」に相当するものはないと言われています。

治療

「肛門周囲腺腫」患部の切除+去勢手術。状況によっては去勢手術のみを実施し、腫瘤のサイズが小さくなってくるのを経過観察する場合もあります。

    誤解のないように書いておきますが、「良性だから様子を見てもよい」というわけではありません!!何もせずに様子を見てはいけません。付け加えれば、「元気があるから大丈夫」というわけでもありません。腫瘍患者さんで、元気がなくなってしまったら大事です。

肛門周囲腺腫を生じている犬には同時に精巣自身にも腫瘍が発生していることもありるため、その場合には精巣の切除手術を同時実施します。

★「肛門周囲腺癌」(が疑われる)場合

オス、メス/去勢・避妊の有無に関係なく生じると言われています。(メスに多いと言われています)

こちらは発生は少ないと言えるが、悪性の腫瘍ですので、術前の鑑別が大切です。

悪性の腫瘍ですから、腹腔内リンパ節や腰下リンパ節群への転移有無や、腫瘍随伴症候群のひとつである「高カルシウム血症」の有無なども術前に検査します。

ちなみに、肛門周囲腺癌に関わらず、悪性腫瘍に伴い高カルシウム血症がある一定数の割合で発生します。(リンパ腫、多発性骨髄腫、肛門嚢腺癌、血管周皮腫など)

※ 肛門周りに生じる腫瘍には、他に「肛門嚢アポクリン腺癌」があります。こちらについては、過去に記載した文章がありますので、「症例報告」をご覧下さい。

 

遠方よりお越し頂きました。

他の病院ですでに抗生物質を1ヶ月以上投与されていた患者さまで、様子を見ましょうと言われているとのことでした。改善がないということでご来院されました。

尾を持ち上げてみると肛門周りの毛に血液が付着しています。

肛門3時の位置は潰瘍をおこしています。

この子は去勢をしていない老犬ですので、まっさきに鑑別診断にあがるのが「肛門周囲腺腫」ですが、

「癌」である可能性は否定できません。病理検査を実施しないと診断はつきませんが、患部を切除しなければ

わんちゃんの生活の質が著しく低下しますし、ご家族様はつねに愛犬のお尻から出る出血に悩み続けることになります。

また上記したように、これ以上大きくなると肛門括約筋切除範囲が広くなるため、術後の排便障害が懸念される為一刻も早く手術する事をおすすめ致しました。

手術直前の写真です。よく見ると大きな潰瘍を要した腫瘤に加え、側に小さな腫瘤がもう一つ出来ています。

※ 直腸内には糸付き消毒ガーゼが挿入されています。

上記は手術直後の様子です。

肛門の皮膚から粘膜に至る部分は特に薄い部分ですので、単純な縫合だと直ぐに皮膚が裂けてしまうこと

があるために、縫合糸と縫合方法を変えて縫ってあります。

1ヶ月後の再診時の様子です。1時から3時の位置の肛門部は切除の為欠損しています。

ご家族さまに確認したところ、幸いにも排便障害はないということでした。

ただし、排便時に便がナナメに排泄されるようです。

 

肛門部位の腫瘍についてもご相談ください。

さいたま市大宮区 さいたま新都心 見沼区 武内どうぶつ病院です。