●猫肺指症候群(ねこ・はいし・しょうこうぐん)について。

猫ちゃんの指の異常に気を付けて!というお話を書かせて頂こうと思います。

この疾患は、肺腫瘍(肺がん)が、前足や後足の指に転移した状態のことです。病名に「指」という感じが付いていますが、転移先は指だけではなく、足、頬、首、眼球にも転移が生じること報告されています。

そもそも、猫は犬に比べれば皮膚におできや、結節が生じることはわりと少なめです。

皮膚や足、指に異常が認められた場合には、お外に自由に出入りする猫ちゃんならば、まず第一に外傷を考えますが、完全室内の猫ちゃんの場合や、

一般外傷治療に反応しない病変の場合には、表題の疾患を鑑別診断に入れる必要があります。

 

指の異常なのに、「胸のレントゲンを撮りましょう!」という話しになるので、ご家族さまは「えっ」となるかもしれません。

 

猫の呼吸器はとても高性能なので、肺や気管に異常があっても症状を示さないことが多い為、肺腫瘍が「足のびっこ」をキッカケとして判明することがあるわけです。

この疾患については、1980年代に初めて報告がなされ、国内でも2010年、麻布大学獣医学部動物病院、腫瘍科グループが「肺指症候群の猫5例の臨床所見」というタイトルで報告がなされています。

以下にその論文の抄録を添付します。

抄録

肺指症候群と考えられた猫5例の臨床所見について検討を行った。肺原発巣に伴う呼吸器徴候は5例中1例のみで見られ、ほかの4例では呼吸器症状は全くみられなかった播種転移部位は、主に、指、体表部筋肉、皮膚であった。5例の中央生存期間は60日(12~125)であり、呼吸器徴候を伴い死亡したものは1例のみであった。これらの臨床所見から、本病態における治療として、肺葉切除は意義が低いことが示唆された。また、転移病変は全身に存在することから、断指をはじめとする外科的治療は残存する指や肢の負重増加により動物の生活の質をさらに低下させる可能性が示唆された。

以上。

診断

この疾患を疑って、患部(足や指)のレントゲンに加えて、組織診断、胸部(肺)のレントゲン、全身状態把握の為の血液検査ななどを行っていきます。

鑑別疾患に大動脈血栓症、(心筋症)各種皮膚疾患・呼吸器疾患があげられています。

治療

この疾患と確定診断された場合には、論文にも記載されているように根本的な治療策は残念ながら乏しいのが現状のようです。

抗がん剤治療、肺の原発巣の手術、患部(指先等)の切除などが治療の選択肢として当然でてくるわけですが、

これに対しては、猫に対するメリットが少ないだけではなく、猫のQOL(生活の質)を低下させ、かえって猫に新たな苦痛を与えてしまうことがある為に推奨されないと報告されています。

(「肺指症候群の猫5例の臨床所見」麻布大学による)

しかし、今後の研究によっては、違った結論がでてくる可能性があるかもしれませんし、どの時点で発見できたかなどの違いによっても、治療方法が異なってくるかと思います。

「肺指症候群」の場合、現状では、痛みの軽減や栄養補助、呼吸困難に対する酸素給与などの緩和ケアが中心となってくると思われます。

まとめ

簡単に言えば、猫ちゃんの肺腫瘍(がん)は指に転移することがありますということ。

もしご家族の皆さんの猫ちゃんがびっこを引いたり、足先が腫れていたり、何かでき物を発見した時には、少しばかり様子を見てもよいのですが、改善しないようならば動物病院で診察してもらうことをおすすめいたします。

もちろん、「肺指症候群」はそうそうある疾患ではありません。

ちょっと怖がらせてしまったかもしれませんが、猫ちゃんの異常に最初に気づいてあげられるのは、ご家族さましかいません。

愛する我が子を守る為に、ちょっと頭の隅に置いておいて欲しい知識をお話しました。

よき、キャットライフを!

猫ちゃんの腫瘍疾患の診察もご相談ください。さいたま市大宮区 さいたま新都心 武内どうぶつ病院です。