皮脂腺上皮腫の外科切除(皮脂腺由来の腫瘍について)
皮膚にも色々な腫瘤が生じます。皮膚には様々な構造物が存在しますが、その1つに「あぶら」を作っている組織があり、
この組織を「皮脂腺」と呼びます。
この「皮脂腺」を発生源とする皮膚腫瘍がいくつか知られています。
ちなみに主に犬で発生し、猫では少ない腫瘍です。
1.皮脂腺上皮腫
汗腺の一種の脂腺が腫瘍化して塊となって増えたものです。上の皮脂腺過形成は腫瘍ではありませんが,皮脂腺上皮腫は低グレードの悪性腫瘍です。大きさも1cm以上ありますが,多発することは少ないようです。頭によくみられます。早期に外科的に切除するのがよく,再発転移はまれにみられます。
2.皮脂腺過形成 (こちらは「腫瘍」ではありませんが、皮脂腺由来の「腫瘤」のうちとても良く見られるものです)高齢犬に割とよく見られます。傷ついて出血したり、時に細菌感染をおこしたりします。
その場合には外科摘出します。顔面領域や四肢端でなければ多くの場合、局所麻酔にて切除が可能なことも多いタイプです。
3.皮脂腺腫
4.皮脂腺導管腺腫
この2者は良性腫瘍に分類されます。皮脂腺腫と皮脂腺導管腺腫は良性腫瘍ですから、外科切除により治療します
5.皮脂腺上皮腫
6.皮脂腺癌
この2者は悪性の腫瘍です。発生は稀ですが、治療は早期の外科手術となります。
特に「皮脂腺上皮腫」は「~腫」という名前が付いていますので、「脂肪腫」や「乳腺腫」の様な良性のようなイメージですが、悪性腫瘍に分類されるものです。
ちょっと話しはそれますが、動物の腫瘍で「~腫」という腫瘍名のうち「リンパ腫」や「肥満細胞腫」が悪性腫瘍の代表です。
皮脂腺上皮腫は成書にはリンパ節転移すると記載されていますが、実際に転移することは極めて稀であるとされています。
今回は「皮脂腺上皮腫」について、当院の例をご紹介します。
こちらは上記のように一応「悪性」に分類される腫瘍です。これには以下のような論文があります。
「リンパ節転移を伴う犬の皮脂腺上皮腫の 1 例 」という表題で長峰ら、によって報告されたものです。
そこには、以下のような記述があります。
「成書において、逸話的に頭部に発生する皮脂腺上皮腫は稀に所属リンパ節への転移を伴 うとされているが、現在までに転移が認められた犬の皮脂腺上皮腫の報告は、中枢神経系 および肺への転移を伴う口唇原発の皮脂腺上皮腫の再発症例1例のみであり、病理組織学 的にも悪性の皮脂腺上皮腫は分類されていない。」
長峰らは今回、12 歳の去勢雄シー・ズーにおいて、左後肢内側下腿部皮膚に「皮脂腺上皮腫」の再発が認 められ、左鼠径リンパ節に転移巣が確認されたために病理組織学検査をしたところ、左鼠径リン パ節への転移を伴う悪性皮脂腺上皮腫と診断したとのことです。
つまり、「皮脂腺上皮腫」は滅多にリンパ節転移はしないんだけど、転移してもおかしくないよということのようです。
「当院での手術例」
耳におできが出来たとの事で、ご来院いただきました。犬のご家族さまは患部から発する「臭い」と犬が頭を振ることによって飛び散る「分泌液」に悩ませれているとのことでした。
一連のお話しをさせていただき、切除することになりました。(ご家族さまの決断に感謝です)
手術の前に、各種検査を行って麻酔前の評価を行います。
写真は耳の耳介に生じた「腫瘤」です。直径約3cmあります。耳に出来るものとしてはやや大きめと言えるでしょう。
術前に耳介神経に局所麻酔薬をうって、神経ブロックをしているところです。もちろんこの時点で「全身麻酔」がかかっています。(そうでないと痛い!ですから)
こうすることで、全身麻酔から覚めたあとの術後痛をある程度抑えてくれます。(写真の左が鼻側、右側は首側で、上が頭頂部、下はアゴ側になって寝ています)
術後はこうのような形になりました。
直ぐ側をある程度立派な血管が走っていましたので、まずは血管を温存するような形で手術をおえました。
このあとはバンテージを巻いて、終了です。
現在ではとてもスッキリして、QOLも元に戻り快適になりました。
今後は、リンパ節転移を含めて術後ケアをしていくことになりました。